其の131『栄誉と名声の狭間で』 |
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時代 |
青野原の記憶 |
地域 |
京都(五条) |
刀剣 |
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条件 |
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蜂須賀虎徹 |
……ここは |
石田正宗 |
そうだね、三成様はこの先で死ぬ |
石田正宗 |
まあ、私はここに居合わせてはいない。けど、そう──私はひと時も苦しませることなく、首を落とすことはできるのだろうか。そんなことを考えていた |
蜂須賀虎徹 |
……なぜ |
石田正宗 |
なぜ? これだから裁断銘付きの刀は。柔らかいところをぶっすり刺してくる |
蜂須賀虎徹 |
そうではない。俺にも覚えのあること、……だからだ |
石田正宗 |
……あまり口にはしたくないけど、刀は斬れてこそ。使われずとも |
蜂須賀虎徹 |
使われずとも……か |
蜂須賀虎徹 |
確かに、俺には刀工長曽祢虎徹の生前に刻まれた裁断銘がある。しかし、斬れることによって番付を昇りつめた虎徹は、その多くが在銘であるにも拘わらず、巷には贋作が溢れ、虎徹は偽物しかないと言われるようになった |
蜂須賀虎徹 |
するとどうだ、粗悪な贋作、見紛う贋作、贋作は無尽蔵に増えていく。そして、皮肉なことに使われるほどに虎徹の評価が上がる。一方で、真作はその中に埋もれていってしまう…… |
蜂須賀虎徹 |
本物の虎徹とは。虎徹を虎徹たらしめるものとは…… |
石田正宗 |
…… |
石田正宗 |
……うん。……それが、人だ |
蜂須賀虎徹 |
……虎徹には、刀を作り、その刀を振るって、研究し、有象無象の中から実証してくれた人たちもいた |
蜂須賀虎徹 |
全ては人から始まる。この問いも…… |
蜂須賀虎徹 |
だから……、俺は虎徹の名に相応しい自分であれているだろうかと、常に問うている |
石田正宗 |
……ああ、そうか。私たちは、案外似た者同士なのかもしれない |
蜂須賀虎徹 |
え? |
石田正宗 |
正宗を見たら偽物と思え |
石田正宗 |
正宗にも……かつて、私たちに価値を見出し、高め、それを守ろうとしてくれた人たちがいた |
石田正宗 |
人はすぐに争い合って死んでしまうけど……。人は物を作り、物を眺め、愛で、物を語る。物を壊し、そしてまた物を作る |
石田正宗 |
忘れてしまうこともあるし、間違うこともあるけど |
蜂須賀虎徹 |
ああ、その心を受け取りたい |
石田正宗 |
うん。……そろそろ行こう、三成様が来る |
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