第一章の投稿は終わりましたが、設定に誤りがあることに気がつきました。 リンクがマスターソードを抜いたのは12〜13歳の頃らしいです。 本作品ではリンクがマスターソードを抜いた時期を大厄災の数ヶ月前だとして話が構成されているため、本編の時系列とは大きく異なることご理解いただけると幸いです。
「魔物の…大群…!」 青年を追いかけてきたのであろう大量の魔物がこちらへ迫ってきていた。 豚のような醜い顔に、巨人のように強靭かつ巨大な図体、そして白い体表に浮かぶ禍々しい紫色の縞模様は、ハイラルに蔓延る魔物の中でも特に危険視される白銀モリブリンに違いなかった。 それも一体や二体どころではない。目算でも二十体はいようかという大群で、こちらに迫ってきているのだ。 駐屯地の兵士達の中で驚きと混乱の声が広がる。いくら二名の近衛兵がいようと、まともに相手をするならばこの場にいる一般兵から多く...
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「魔物の…大群…!」
青年を追いかけてきたのであろう大量の魔物がこちらへ迫ってきていた。 豚のような醜い顔に、巨人のように強靭かつ巨大な図体、そして白い体表に浮かぶ禍々しい紫色の縞模様は、ハイラルに蔓延る魔物の中でも特に危険視される白銀モリブリンに違いなかった。 それも一体や二体どころではない。目算でも二十体はいようかという大群で、こちらに迫ってきているのだ。 駐屯地の兵士達の中で驚きと混乱の声が広がる。いくら二名の近衛兵がいようと、まともに相手をするならばこの場にいる一般兵から多くの死傷者が出てしまうだろう。 男の頬を冷や汗が伝う。今この場で兵士達への指令権を握る彼自身が、ここで誤った選択をしたならば多くの犠牲が出てしまう。 しかし、魔物は男が決定を下すまで待ってはくれない。僅かな猶予の中で、彼は遂に決断する。
「この場にいる全てのハイリア兵に告げる!その旅人を連れ、北西のハイラル軍駐屯地へ事態の報告、及び援軍を求めよ!奴らは我ら二人で足止めする!」
兵士達は指示を聞いて大慌てで撤退の準備を始めた。 その中で同僚が男に異議を唱えた。
「正気か?あの量の白銀種を相手にどれだけ持つと思っているんだ。いくらお前でも ───」
「あぁ、分かっているさ。下手すりゃ死ぬ。それでも後に退くわけにはいかないだろ?俺らが全員で尻尾を巻いて逃げちまったとして、それを追った奴らは辺りの宿場町にも被害をもたらしかねない。」
咎める同僚の言葉も確かに正論ではあった。しかし男の意思は揺るがない。彼の両手には既に、漆黒の両手剣が握られていた。
「悪いけどよ、少しばかり俺の無茶に付き合ってくれ。なんとしてでも犠牲を出したくない。それはもちろん、俺達二人の中からもな。」
同僚が呆れ返ったように苦笑する。一般兵の移動も済み、既にただ二人しか残されていないその駐屯所はしかし、静寂に包まれることなく人混みのように賑やかであった。魔物共の雄叫びとその足音が絶え間なく響いていたからだ。 かくして、戦の火蓋は切られたのであった。大量の魔物にたった二人で挑むその様は、何も知らぬものから見たら無謀であっただろう。いや、事実そうだったのかもしれない。 ただ一つ言えることがあるとすれば、この戦いが男の人生を大きく狂わせることになるということのみだった。
同僚の言葉通り、それからそう経たぬうちに、天才少年騎士リンクは王国最年少の近衛騎士となった。 優しき心に強靭なる肉体。それでいて騎士の規範たる誠実な立ち振る舞い。彼は瞬く間に王国のヒーローとなる。 対厄災の要となる退魔の剣の剣士も彼になるであろうと、彼を知る誰もが信じて疑わなかった。そう、ただ一人を除いて。 「また剣の素振りか。いい加減腕も痛くなんないのか?少し休んだらどうだ。」 場所は中央ハイラルのコモロ駐屯地。近衛兵団のうち何名かは、直近の魔物の活発化を受け、国中の駐屯地へと...
同僚の言葉通り、それからそう経たぬうちに、天才少年騎士リンクは王国最年少の近衛騎士となった。 優しき心に強靭なる肉体。それでいて騎士の規範たる誠実な立ち振る舞い。彼は瞬く間に王国のヒーローとなる。 対厄災の要となる退魔の剣の剣士も彼になるであろうと、彼を知る誰もが信じて疑わなかった。そう、ただ一人を除いて。
「また剣の素振りか。いい加減腕も痛くなんないのか?少し休んだらどうだ。」
場所は中央ハイラルのコモロ駐屯地。近衛兵団のうち何名かは、直近の魔物の活発化を受け、国中の駐屯地へと臨時的に派遣されていた。男もまたその一人であり、同僚の近衛兵と二人で、このコモロ駐屯地へ配置されたのだ。 同僚の心配も他所に、男は剣を振り続ける。退魔の剣を握るべき人間は自分だと今も尚信じ続けている彼にとっては、この程度の鍛錬など苦痛ではなかった。
「俺たちがこんなチンケな駐屯所にいる間、いつ厄災が復活するのかも分かんないんだぞ。神獣や姫巫女以前に、俺たちハイリア兵も重要な戦力だ。休んでなんかいられるか。」
同僚の方を向くこともなく、彼は素振りを続ける。
「もしかして…昔言っていた夢、まだ諦めていないのか?退魔の剣の騎士になりたいっていうの。」
その言葉に一瞬、素振りをする手が止まった。
「─そう簡単に諦められる訳ないだろ?半端な志じゃここまで登り詰められていないさ。」
「そうは言うけれどよ…この調子じゃ、あの新人が退魔の剣に選ばれるんじゃないのか?目標を高く持つのは良いが、夢に心酔すると挫折した時どうしようもなくなるぞ。」
男は密かに歯をかみ締めた。
「…それでも…仮にそうだとしても、俺は───」
「助けてください!!」
後に続く言葉が出る前に、切羽詰まった様子の大声が駐屯所に響いた。
「魔物が、魔物の大群が!急いで、僕は急いで逃げてきたんです─でも、このままじゃ、このままじゃ殺される!!」
只事ではない様子の叫び声に、男は同僚と共に駆けつける。そこには、か弱い赤子のように小さくうずくまりガタガタと震える青年がいた。その銀髪と着物から、シーカー族であるようだった。 途端に、男は遠くから恐ろしい声が聞こえたように思えた。獣のように野性的で、悪魔のような獰猛さを感じさせる低い唸り声。嫌な予感を抱きつつも、男は声のする方へ視線を向けた。そこには―
───第一章「憧憬という名の呪縛」─── ある少年がいた。中央ハイラル南部のアデヤ村で生まれた彼は、両親にも友人にも恵まれ、何一つ不自由ない環境で少年期を過ごした。 少年には夢があった。その夢は、いつしか彼の生きる目的そのものとなった。 彼は伝説に生きる退魔の剣を持つ剣士に憧れたのだ。圧倒的な力で悪を封じ、姫巫女を救い出し、民に安息をもたらす。その強さに、その勇気に、彼は憧れたのだ。 その夢の実現にはどんな努力も厭わなかった。愚か者と笑われ、無理な夢だと蔑まれても、彼は一人剣を振るい続け...
───第一章「憧憬という名の呪縛」───
ある少年がいた。中央ハイラル南部のアデヤ村で生まれた彼は、両親にも友人にも恵まれ、何一つ不自由ない環境で少年期を過ごした。 少年には夢があった。その夢は、いつしか彼の生きる目的そのものとなった。 彼は伝説に生きる退魔の剣を持つ剣士に憧れたのだ。圧倒的な力で悪を封じ、姫巫女を救い出し、民に安息をもたらす。その強さに、その勇気に、彼は憧れたのだ。 その夢の実現にはどんな努力も厭わなかった。愚か者と笑われ、無理な夢だと蔑まれても、彼は一人剣を振るい続けた。 時には少年の体には重すぎる剣で魔物に挑んで怪我を負い、時には冷え込んだ夜更けまで鍛錬を続け熱を出すこともあった。しかしそうして己の未熟さを知る度に、少年はそれまでの倍以上の時間を鍛錬に費やした。 いつしか少年はたくましい青年となり、いつしか青年は一人前の男となった。 ハイラル兵団に入団して実績を残し、長い年月を経て、ついには近衛兵となった。それも、退魔の剣への憧れを原動力に積み重ねた、十数年に渡る努力の末のものだった。 男が近衛兵として任命されてから、しばらくが経った頃である。一人の少年の噂が彼の耳に入った。
「天才少年騎士?」
「あぁ、確かリンクとか言っていたな。どうやら近衛騎士の父の元で育ったらしい。幼い頃から相当に鍛えこまれていたそうで、まだ十五だか六だかの子どもなのに、あちこちで期待の新人だと騒がれているぜ。」
男の同僚がそう語る。しかし彼は内心、高を括っていた。
「そりゃ凄い話だ。だが、少し若いからって騒がれすぎじゃないか?肝心の実力はどの程度なのよ。」
「その気になればライネルも一人で倒せるとか。」
その言葉の意味を理解するのに、男は数秒の時間を要した。最上級の魔物であるライネルの単独討伐とは、それだけ不可能に近い所業なのだ。ましてや、それが一人の少年によってなされたなど、誰が信じられるだろうか。
「なっ!?さすがに噂に尾びれがつきすぎやしないか。あんなデカブツ、一端のガキが倒せる訳ないだろ。」
「いいや、事実らしい。なんでもゾーラの王女を救ったんだと。俺らの仲間入りも時間の問題だろ。」
第一章の投稿に取り掛からせていただきます。文字制限の都合上三つの投稿に分かれたものとなりますこと、ご理解お願いします。
カッシーワが、勇者へと詠う詩──それは、一人の男の物語。理想に囚われた彼の半生と、後の人生の転機となる事件の発端を描いた第一章「憧憬という名の呪縛」是非どうぞ。
そう言っていただきありがたいです。 しかし、私としましては多くの人に作品が認められること以上に、作品を書くという過程の方が楽しんでいる節があります。 それに、ネットという狭い世界において自分の作品など、所詮は中学生の妄想にすぎません。 なので、むしろ目立ちすぎずこのような掲示板でひっそりと投稿するのが望ましい形でもあるのです。
すみません… 舞台設定や世界観は本ゲームのものとなっていますが、はっきりいって攻略とは何ら関係のない内容となっていますので、何かしらご迷惑に思われたり、不快感を感じられたりするようでしたら、投稿は打ち止めにさせていただこうかと…
極端に過激な描写や救いのないエピソードは避けましたが、何かお思いになることがございましたらご指摘していただいて構わないです。
もう無用の情報かもしれませんが、ヒノックスがおすすめですよ。 首にかけている武器は、寝ている時に高いところからパラセールで滑空すれば戦わずにとる事ができます。
テストも兼ねて今日はプロローグのみを投稿させていただきます。 問題のないようでしたら、明日以降は本編の公開にも取り掛かろうかと。 それではどうぞ ─プロローグ─ 静寂に包まれた夜のカカリコ村で、一人カッシーワは佇んでいた。ふと、背後から足音が聞こえてきた。何者かと振り返る。 「…おや?こんな夜更けにどなたかと思えば、あなたでしたか。」 そこに居たのは、金髪の美少年リンクであった。死線をくぐり抜け疲弊に満ちてもなお、月光に照らされるその表情は美しく見えた。 「こんば...
テストも兼ねて今日はプロローグのみを投稿させていただきます。 問題のないようでしたら、明日以降は本編の公開にも取り掛かろうかと。 それではどうぞ
─プロローグ─
静寂に包まれた夜のカカリコ村で、一人カッシーワは佇んでいた。ふと、背後から足音が聞こえてきた。何者かと振り返る。
「…おや?こんな夜更けにどなたかと思えば、あなたでしたか。」 そこに居たのは、金髪の美少年リンクであった。死線をくぐり抜け疲弊に満ちてもなお、月光に照らされるその表情は美しく見えた。
「こんばんは。村の者から聞きましたよ。厄災を討伐なさったそうじゃないですか。」
嬉々としてカッシーワは言葉を続ける。リンクは厄災の討伐後、ゼルダと共にカカリコ村のインパへと報告に来ていた所だったのだ。
「ありがとうございます。あなたなら、成し遂げてくれると信じていました。今は亡き師匠も喜んでくれることでしょう。」
「…そういえば、姫様はもうご就寝なされたのでしょうか?御一緒だったとお聞きしたのですが。」
リンクは頷いた。百年の歳月、封印の力を振るい続けた彼女の消耗は想像を絶するものだったのだろう。
「そうですか。私は師匠の弔いへこの村へ訪れたところだったのですが、偶然にもあなたとお会いできたこと、嬉しく思います。」
カッシーワの両翼に据えられた楽器が、月明かりに照らされきらりと光った。
「───少し、お時間よろしいでしょうか。あなたにこそ聴いてもらいたい、特別な詩があるのです。」
カッシーワの言葉が、幾らか重みを帯びたように思えた。 リンクは静かに首を縦に振り、肯定の意を示した。
「ありがとうございます。それではこのカッシーワ、詠わせていただきます。遡るは百年前、この先のサハスーラ平原にて振るわれた勇気を描く、知られざる英雄譚を。」
先日ご相談した二次小説ですが、やっと書き上がりました。つまらないものですが、このコメントの返信欄に投稿させていただこうと考えています。 何らかの禁止事項への抵触を防ぐため、章ごとに、または場面ごとに時間を空けての投稿をさせていただきます。全五章、二万文字の文章量であるため、数週間程かけての投稿になる予定です。
───コモロ駐屯地へと襲来する魔物の大群に、戦いは混沌を極めていた。血と泥に塗れた激戦の渦の中、男は非情な現実を目の当たりにすることとなる。─── 激動と絶望の第二章「退魔の剣に選ばれる男」は明日投稿予定です。
第二章「退魔の剣に選ばれる男」 男が巧みに振るう近衛の両手剣は本来、集団戦には不向きなものであった。 その超重量は敵を断ち切る絶大な力を生み出すと同時に、持ち主の動きを鈍らせる枷ともなるのだ。故に、例えその強力な一撃を叩き込むことができても、その後には大きな隙が生まれ、敵に反撃の好機を与えてしまう。また、近衛装備に共通する特徴として、耐久性にも問題があった。 本来なら一対一の短期決戦に向いたその武器を、集団戦においても問題なく運用できているのは、間違いなく男の絶え間なき努力によるもの...
第二章「退魔の剣に選ばれる男」
男が巧みに振るう近衛の両手剣は本来、集団戦には不向きなものであった。 その超重量は敵を断ち切る絶大な力を生み出すと同時に、持ち主の動きを鈍らせる枷ともなるのだ。故に、例えその強力な一撃を叩き込むことができても、その後には大きな隙が生まれ、敵に反撃の好機を与えてしまう。また、近衛装備に共通する特徴として、耐久性にも問題があった。 本来なら一対一の短期決戦に向いたその武器を、集団戦においても問題なく運用できているのは、間違いなく男の絶え間なき努力によるものだった。図太き二の腕の筋肉は刀身を軽々と持ち上げ隙も生み出さず、鍛え抜かれた剣技は、剣への負担を最小限に、最大限の威力を発揮することを可能にしていた。
「…ッ!くたばりやがれっ!この…デカブツがぁ!!!」
また一体、漆黒の剣先によりモリブリンが切り伏せられた。 すかさず、男の背後から別のモリブリンの拳が振り下ろされる。振り向く暇もない。男はすぐさま横へ跳び攻撃を回避、その後振り返りざまに刀身をモリブリンの拳へ叩きつけた。 硬い音がしたあと、モリブリンはぎえぇ、と苦悶に歪んだ声を上げ、砕けた拳をもう一方の手で痛々しそうに抑える。 男はその隙を見逃さず渾身の突きをモリブリンに喰らわせる。その威力に、さすがの巨体も吹き飛ばされ、仰向けの状態で地面を滑っていった。 吹き飛ばされたモリブリンを追いかけるように男は全力疾走で距離を詰める。 最後に両足で地面を蹴り高く跳躍すると、重力に乗せて剣を仰向けのモリブリンの胸元に突き刺した。
「はぁ…ッ!はぁ…ッ!」
度重なる戦闘での消耗から、呼吸が荒くなる。だがしかし、男は同僚との共闘の末、既に当初の半分近くのモリブリンを殲滅することに成功している。 さらには、両者共にここまで致命的な攻撃を受けずに戦えてきているのだ。
「このまま行けば───やれる!」
確信したその時、突如として男の足元に同僚が転がり込んできた。
「ぐっ…クソッ…」
同僚の泥まみれの制服には、赤黒い鮮血が滲み出ていた。
「おまっ…どうして…!」
突然のことに理解が追いつかない。
「舐めていた…この群れに…いたのは…白銀種だけじゃぁ…なかったんだ…!」
男はその言葉の意味を理解した瞬間、サッと血の気の引く感覚に襲われた。 視線を前にやると、そこには黄金の体表に覆われたモリブリンが猛々しく咆哮を上げていた。 「嘘…だろ…?」 黄金モリブリン───白銀モリブリンを超える圧倒的なまでの肉体を誇るモリブリンの最上位種。 ライネルにすら匹敵するとされるその頑丈さから、近衛兵クラスの手練数人規模で討伐するのが一般的とされている。 だがしかし、男は今、それをたった一人で相手しなくてはならないのだ。 「…」 恐怖で震えようとする足を、無理矢理抑...
男はその言葉の意味を理解した瞬間、サッと血の気の引く感覚に襲われた。 視線を前にやると、そこには黄金の体表に覆われたモリブリンが猛々しく咆哮を上げていた。
「嘘…だろ…?」
黄金モリブリン───白銀モリブリンを超える圧倒的なまでの肉体を誇るモリブリンの最上位種。 ライネルにすら匹敵するとされるその頑丈さから、近衛兵クラスの手練数人規模で討伐するのが一般的とされている。 だがしかし、男は今、それをたった一人で相手しなくてはならないのだ。
「…」
恐怖で震えようとする足を、無理矢理抑え込む。耳元で血潮の脈打つ音が聞こえた。目の前の脅威に、体のあちこちが悲鳴を上げるのを感じる。 それでも黄金のモリブリンは止まらない。鮮血のような深紅の双眸で男を捉え、一歩、また一歩とこちらへ迫ってきていた。 覚悟を決めなければ。 「…俺は───」
男は両手に握る漆黒の大剣を構え、男は踏み出した。目の前の敵を討つがため、己の恐怖心に打ち勝つがため、男は駆ける。
「俺は───!!」
口から言い放たれる言葉は、己を鼓舞し、自らの恐怖を忘れさせるためのもの。 前へ踏み出される足はなおも加速し、風の如く疾駆する。
「退魔の剣に!!」
獲物の急接近を好機と見たか、モリブリンはその拳を大きく振り上げた。だが、いずれ振り下ろされるであろうその拳も、男にとってはもう恐怖ではなかった。
「選ばれる男なんだ!!!」
獲った───そう確信し、剣を力あるままに振り回す。その切っ先が、モリブリンの胴体を両断する、その筈だった。
「───あ」
世界が逆転した。刹那、モリブリンが右足を蹴りあげ、男の体を吹き飛ばしたのだ。 流石黄金種だけあり、その蹴りの重みは桁違いであった。体のどこかが折れてしまっただろうか。妙な感覚が全身を襲った。 だが、痛みだけは感じなかった。それはきっと、限界まで奮い立った脳が、余分な情報を感じとるまいとしていたからだろう。 ボロボロの体を無理矢理起こす。なぜ立っていられるのかも不思議な程の重症。それでも男は諦めない。諦める訳にはいかない。 「…だから、だから俺は…」 再び、手の中にある重い鉄の塊を...
世界が逆転した。刹那、モリブリンが右足を蹴りあげ、男の体を吹き飛ばしたのだ。 流石黄金種だけあり、その蹴りの重みは桁違いであった。体のどこかが折れてしまっただろうか。妙な感覚が全身を襲った。 だが、痛みだけは感じなかった。それはきっと、限界まで奮い立った脳が、余分な情報を感じとるまいとしていたからだろう。 ボロボロの体を無理矢理起こす。なぜ立っていられるのかも不思議な程の重症。それでも男は諦めない。諦める訳にはいかない。
「…だから、だから俺は…」
再び、手の中にある重い鉄の塊を構えた。自分の中に残る全ての力を総動員させ、今一度走り出す。
「…こんなところで…!!」
モリブリンがまた、満身創痍な男の肉体を潰さんと拳を振り上げる。
「負ける訳は…!!」
切っ先を標的に向け、思いっ切り剣を押し出した。それがモリブリンの体を穿ち、貫き、勝利に導いてくれると信じて。
「いかねぇんだよ!!!」
だが、現実はどこまでも非情であった。 獲られた───そう刹那に理解した。このままでは、間に合わない。モリブリンの拳はいずれ男の体を潰すことになるだろう。 そう分かった瞬間、やけに冷静になった。拳が振り下ろされるまでの一瞬がとてつもなく長く感じられた。 ああ、自分は死ぬんだと、目の前の現実を理解しきった後、頭に浮かぶは在りし日の情景だった。 自分を支え、決断を信じてくれた同僚への謝罪も言うことなく終わってしまうのか、自分を笑顔で送り出してくれた両親にもう会うことはできないのか、数々の後悔が津波のように心に押し寄せた。それでも顔を伝うのは涙ではなく、薄汚れた泥と血で、なんとも言えないやるせなさに襲われる。 血のにじむような果てしない努力も、今、全てが無意味となる。あぁ、幼き頃から夢見ていた退魔の剣。その姿を、一度でいいから拝み見たかったものだ。 もう、どうにでもなってしまえ、そんな諦めに近い感情を抱いたその時─── 一筋の蒼い光が、モリブリンを貫いた。それの速さ、それの美しさはまるで流星のようで、それは星にも勝る神秘の輝きを放っていた。
命の危機を免れた男は、そのまま地面に叩きつけられる。 「あ…あ…あぁ…」 そう、それは一本の剣であった。見紛うこともない。広げられた翼を象った鮮やかな蒼色の鍔に、聖遺物が彫られた神々しい輝きを放つ白銀の刀身は、伝説に語り継がれる最強の武具───男が憧れ続けた退魔の剣そのものであった。 それを手にしモリブリンを圧倒しているのは、一人の少年であった。整った顔立ちに、陽光のように鮮やかな金髪、噂に聞く天才少年騎士リンクだ。 男は一瞬にして、彼が見せる華麗な剣技に釘付けとなった。地面に這いつく...
命の危機を免れた男は、そのまま地面に叩きつけられる。
「あ…あ…あぁ…」
そう、それは一本の剣であった。見紛うこともない。広げられた翼を象った鮮やかな蒼色の鍔に、聖遺物が彫られた神々しい輝きを放つ白銀の刀身は、伝説に語り継がれる最強の武具───男が憧れ続けた退魔の剣そのものであった。 それを手にしモリブリンを圧倒しているのは、一人の少年であった。整った顔立ちに、陽光のように鮮やかな金髪、噂に聞く天才少年騎士リンクだ。 男は一瞬にして、彼が見せる華麗な剣技に釘付けとなった。地面に這いつくばったまま、戦いから目を離せなかった。 軽やかな動きがモリブリンを翻弄し、男を苦しめた蹴りも拳も全くとしてリンクに命中することはない。それどころか、攻撃後のわずかな隙に、リンクは目にも止まらぬ速さで連撃を叩き込む。 男とその同僚を蹴散らした黄金のモリブリンは、一瞬にして討伐された。
「ま、待ってくれ!!」
血塗れの口から思わず咄嗟に言葉が出た。リンクが水晶のような澄んだ目でこちらを振り向いた。
「……それは…その剣は……俺の、俺のものだ…俺が、握るはずの…な、なのに、なんで……」
まともに口が動かない中、気づけば男は誇りも品もない醜く惨めな言葉を口にしてまっていた。自分こそが退魔の剣を振るうことになると、心から信じていたからこその言葉であった。 二人の間に沈黙が広がる。その時、沢山の人の声が辺りから聞こえるのに気がついて、リンクと共に援軍が来たんだと、男は初めて理解した。 それでも、命が助かったことへの感慨も、己の口から出た醜い言葉への羞恥も、男は感じなかった。 今はただ、目の前の剣から目を離せなくて、そして───
「大丈夫ですか!?」
背後から突然声をかけられる。
「酷い傷だ…でも、大丈夫!きっと助かりますからね。」 援軍と共に駆けつけた衛生兵が、男の元へ駆け寄ったのだ。 安心したのか、リンクは残りのモリブリンを殲滅すべく走り去っていく。
「ま、待ってくれ…!それは、それは…!」
動揺しながらも手を伸ばし、尚惨めな言葉が口から漏れ出す。男のことを気にも留めず遠ざかっていくその背中を、彼は薄れゆく意識の中でただ見つめることしかできなかった。
モリブリンとの戦いで深い傷を負った男は、城下町で数ヶ月の療養生活を送ることとなる。ただいたずらに過ぎ去っていく月日を経て、男は何を思い、何を決断するのか? 苦悩と決断の第三章「他の誰よりも」は明日と明後日にかけての投稿を予定しております。
第三章「他の誰よりも」 魔物の襲撃により傷を負った男は、城下町の病床にて数ヶ月を過ごした。娯楽も刺激もない単調な日々の中で、男は自らの存在価値に疑問を抱き続けていた。 『それは…その剣は…俺の、俺のものだ…』 あの日の自分の哀れな姿は、リンクの目にどう映ったのだろうか。あの無表情な瞳の奥に、リンクは何を思ったのだろうか。いくら考えても答えの出ぬ問いを、男は己に投げかけ続けた。 かの天才騎士リンクが退魔の剣に選ばれたのは、ちょうどあの日の数日前だったらしい。伝令が遅れ、男は王国にそれが...
第三章「他の誰よりも」
魔物の襲撃により傷を負った男は、城下町の病床にて数ヶ月を過ごした。娯楽も刺激もない単調な日々の中で、男は自らの存在価値に疑問を抱き続けていた。
『それは…その剣は…俺の、俺のものだ…』
あの日の自分の哀れな姿は、リンクの目にどう映ったのだろうか。あの無表情な瞳の奥に、リンクは何を思ったのだろうか。いくら考えても答えの出ぬ問いを、男は己に投げかけ続けた。 かの天才騎士リンクが退魔の剣に選ばれたのは、ちょうどあの日の数日前だったらしい。伝令が遅れ、男は王国にそれが知れ渡るよりも先に自らの目でそれを知ることになったのである。 だから、退魔の剣に選ばれるべく奮ったあの日の勇気も、本質的には無意味なものだったのだ。あの時点で退魔の剣は主を見つけ出していたし、その主は男ではなかった。 子供の頃からの夢をあっさりと打ち破られた絶望は彼の心から気力を奪い、リンクへ晒した己の醜態は自負を溶かした。 生きる目標も自信も失った男は、過ぎ行く月日の中で怠惰を貪り続けた。夢に見た幼い頃から、無理をしてでも絶やすことのなかった鍛錬も、あの日から一度としてやっていない。 傷が癒えても男は、再び剣を握ることはしなかった。近衛兵を自ら引退したのだ。あの日無様に地を這った自分に、あの時嫉妬と欲望に満ちた言葉を漏らした自分に、国を守る資格などありやしない。退魔の剣へ妄執するあまり、露呈してしまった己の弱さが何よりも許せなかった。
荘厳たる城下町の門を背に、男は故郷へと歩み始めた。ハイラルの美しい青空も、清々しさを感じる一方で、どこか空虚な雰囲気を醸し出しているように思えた。長年の執念と重い責務から自由になれた解放感と寂寥感が、男にそう感じさせたのかもしれない。 城下町ではやかましい程に感じられた人々の活気も、城から遠ざかるにつれて段々と失せ、冷たい風に揺られる草木の音がどこか遠くから聞こえて来るようになった。
ふと、道端の木の根元で男は足を止めた。共に数多の戦場を戦い抜いた愛剣との、最後の別れをするのだ。 背中に担がれた大剣を降ろす。平時なら唯ならぬ威厳を放つ純黒の意匠も、爽やかな木漏れ日に照らされ、心無しか優しい印象を受ける。それは主との別れを惜しむように、艶のある刀身で絶え間なく陽光を反射させて、己の存在を主張し続けた。男はもう、剣に未練など微塵もないという様子で、その場をあとにした。 「その剣、いらないんですか?」 不意に後ろから声をかけられた。どこかで聞いた覚えのある声だったが、...
ふと、道端の木の根元で男は足を止めた。共に数多の戦場を戦い抜いた愛剣との、最後の別れをするのだ。 背中に担がれた大剣を降ろす。平時なら唯ならぬ威厳を放つ純黒の意匠も、爽やかな木漏れ日に照らされ、心無しか優しい印象を受ける。それは主との別れを惜しむように、艶のある刀身で絶え間なく陽光を反射させて、己の存在を主張し続けた。男はもう、剣に未練など微塵もないという様子で、その場をあとにした。
「その剣、いらないんですか?」
不意に後ろから声をかけられた。どこかで聞いた覚えのある声だったが、男は振り向くことなく答えた。
「それはもう、俺のものじゃない。」
「それでも、大切なものだったんでしょ?」
「ただの鉄くずだよ。気に留めるような代物じゃない。」
「そんなこと、仰らないでください。貴方は、今まで自分がしてきた努力を否定するのですか?」
背後の人物からの意図の見えぬ質問に、男は苛立ちを感じた。今はもう、自分の過去から目を逸らしたかった。
「さぁ、どうだろうな。」
「その剣を捨てて、どこへ行くつもりなのですか?何で、城を去ったのですか?」
続々と投げかけられる問いからは、やはり聞き手の意図が感じ取れない。自分のことを以前から知っていたのかのような口ぶりは、あの日の屈辱を嫌でも思い出させるようで、どうしようもなく不快だった。
「このまま故郷へ帰る。もう色々と諦めたんだ。」
「今を諦めるのも、未来を捨てるのも、貴方の自由です。でも、過去だけは、目を背けてもなかったことにはなりませんよ。」
「お前は…俺の何なんだ?お前が俺の何を知っている?」
「それが知りたいと仰るなら───」
突如、背後の人物が距離を詰める。男の肩を乱暴に掴み、一気に引き寄せた。不意の出来事に抵抗もできず、男は初めてその人物と視線を交わした。
「僕と、自分自身の過去と、きちんと向き合ってくださいよ!」
「あ…」
彼の温和な顔つきと銀髪には、男は確かに見覚えがあった。あの日、男が挫折を味わったあの日、駐屯地へ駆けつけたシーカー族の青年であった。 彼は、怒っているような、哀れんでいるような、神妙な表情を浮かべていた。
「覚えていますよね?あの日、貴方の判断に救われた者です。あなたが即座に避難を命じて魔物達を食い止めてくださったお陰で、僕は今も命がある。退院したとの話を伺ったので、お礼をさせていただくべく参りました。」 「…俺は、自分の使命から逃げ出した一端の弱者に過ぎない。礼なんていらないから、どうかお引き取り願いたい。」 「そこまでして、自分の過去と向き合いたくないのですか?」 「…さっきから何なんだ。俺がどうしたってあんたには関係ないだろ。」 「恩人を見放すことなんてできやしませんよ。それに、貴方...
「覚えていますよね?あの日、貴方の判断に救われた者です。あなたが即座に避難を命じて魔物達を食い止めてくださったお陰で、僕は今も命がある。退院したとの話を伺ったので、お礼をさせていただくべく参りました。」
「…俺は、自分の使命から逃げ出した一端の弱者に過ぎない。礼なんていらないから、どうかお引き取り願いたい。」
「そこまでして、自分の過去と向き合いたくないのですか?」
「…さっきから何なんだ。俺がどうしたってあんたには関係ないだろ。」
「恩人を見放すことなんてできやしませんよ。それに、貴方が過去を否定するのなら、それは貴方に救われた者たちの感謝の想いを踏みにじることになる。そんなこと、僕は許せない。」
「……もう、辞めてくれ。お前の説教に付き合っている暇はない。」
男はそう吐き捨て、その場を去ろうとした。かつての自分を知るものと話すというのは、今の男にとってそれだけ不快なものだったのだ。
「そうしていたって、貴方は弱いままだ!」
青年が声を荒らげて叫んだ。不意の大声に、男は思わず足を止める
「何も変わりやしない。あの日の挫折をどこまでも引きずって、またいつか同じことを繰り返すだけだ!目を背けても、過去はいつもそこにある。地を這った屈辱の記憶は、いつだって貴方を―――」
「分かっているよ!!!」
耐えられなくなった男は、青年の言葉を遮り叫び出した。
「俺だって、全部わかっているさ!!例えこのまま故郷へ戻ったって、あの日の記憶は俺の心を苛み続ける!!己の弱さと向き合わなかったのも!挫折したまま立ち上がろうとしないのも!全部俺自身の弱さだ!!」
震える声を必死に上げ、心の中の全てを曝け出す勢いで叫び続ける。
「それでも、直視し続けることなんてできなかった!限界だったんだ!自分の過去から、逃げ出さずには居られなかった!」
男の叫びは徐々に力ないものへと変わっていった。
「でも、もう耐えられない…全部忘れようとしたあの日から、心にぽっかりと穴が空いたみたいに全てが虚しく感じるんだ…その穴は、目を背ければ背けるほどどんどん大きくなって…」
涙が男の頬を伝った。嗚咽混じりに男は続ける。
「…確かに俺は弱い…だから、向き合うことも忘れることもできやしない…俺は…俺はぁ…!どうすればいいんだよぉ…!」
男は力無く膝から崩れ落ちた。それを見た青年は、傍らの両手剣を重々しく持ち上げる。 「今はまだ、無理に向き合わなくてもいい。だから代わりに、これからこの剣を背負ってください。その重みにも耐え切った時、貴方ならきっと乗り越えられる。自分自身の過去を。己の弱さと、正面から向き合うことで。」 青年は優しく語りかける。絶望の底に落ち切った男の心に、その言葉はどこまでも深く染みていった。 「それがどれだけ先になっても、その時にはきっと、貴方は本当の意味で強くなれる。そして何よりも───。」 青年...
男は力無く膝から崩れ落ちた。それを見た青年は、傍らの両手剣を重々しく持ち上げる。
「今はまだ、無理に向き合わなくてもいい。だから代わりに、これからこの剣を背負ってください。その重みにも耐え切った時、貴方ならきっと乗り越えられる。自分自身の過去を。己の弱さと、正面から向き合うことで。」
青年は優しく語りかける。絶望の底に落ち切った男の心に、その言葉はどこまでも深く染みていった。
「それがどれだけ先になっても、その時にはきっと、貴方は本当の意味で強くなれる。そして何よりも───。」
青年は優しく微笑みかけながら、男に大剣を差し出した。
「この剣は、他でもない貴方が持たなければいけません。そうでもないと、これは余りにも重すぎます。」
その刀身を両手で抱き抱えるようにして、男は愛おしそうに受け取った。またしても顔を涙が伝う。だがその涙は、先程とは違う感情から溢れ出たものだった。
「俺が…!俺が今までしてきたことは…!何の役にも立たなかった…!」
尚も口から溢れる言葉は絶望に満ちていながらも、男は胸の内を吐露し続ける。
「それでも、そうだとしても…!俺は、俺はあの時までは…!確かに退魔の剣を夢見ていたんだ…!だから、だから俺は…!」
歴戦を共に乗り越えた相棒を抱き抱えながら、溢れ出る感情を言葉に紡ぐ。
「自分の過去から、逃げる訳にはいかないんだ…!」
いくらか傾いたハイラルの日差しが、二人を眩しく照らした。男の涙に濡れた大剣は先程よりもきらきらと輝きを増し、男はその刀身を強ばった手で優しく撫でた。 清々しく美しい青空も、草気を揺らし楽しげな音を奏でるそよ風も、はたまた燦々と煌めく太陽さえも、心に仄かな希望が差し込んだ男を、祝福しているように思えた。 雄大な自然に包まれる中、男は手の中の剣を愛おしそうに眺めては、時折そっと触れるのであった。影も伸び、空がいくらか赤みを帯びてきても、男はいつまでも若き日の憧憬に深い感慨を懐かせていた。そう、いつまでも、いつまでも───
つい先程、太陽は西の山々へと身を隠し、空は藍色と朱色の鮮やかなグラデーションを彩っていた。 とぼとぼと故郷への歩みを進める恩人を見送り、その姿も見えなくなってきた頃、シーカー族の青年は一人呟いた。
「王家に仕える宮廷詩人、それが僕の生業。僕の使命は、過去に取り残された数多の物語を、詩という名の方舟にのせ、希望に満ち溢れた未来に向けて送り出すこと。だからこそ、過去を蔑ろにする貴方を見過ごすことはできなかった。敬愛する貴方に涙を流させてしまったこと、心からお詫びします。それでも、今も尚失われていない、幾度となく立ち上がろうとするその勇ましさ。僕から見れば、貴方は───他の誰よりも、輝いていますよ。」
───その日、世界は絶望に包まれた。しかし、それでもなお抗い続ける人々がいた。希望を信じて生きようと奮闘する人々がいた。─── 今こそ語られる裏側の物語、第四章「その日」は明日投稿させていただきます。
第四章「その日」
惨劇の足音はいつだって聞こえはしない。それでも多くの者は、朧気ながら『それ』の存在を感じとることができていたのかもしれない。来たる『それ』の影は、徐々にその濃さを増していった。だから、人々は縋った。人々は願った。しかし、彼らの祈りを汲み取ることもせず、『それ』はこの世に何度目かの産声を上げた。 大地が震え、黄昏時の空は赤黒く染まった。ハイラルに人々の悲鳴が響くよりも早く、『それ』はこの世の全てを憎むべく咆哮した。それに共鳴するが如く、分厚い雲が広がり猛々しい嵐と共に雷鳴を響かせる。 他の何よりも禍々しく、他の何よりも獰猛な『それ』の復活を、ハイラルに住まう生きとし生けるもの全てが絶望した。 理性も、自我も、底無しの悪意により失った、かつての大魔王の成れの果て。安寧を望む全ての人々の宿敵であり、飽くなきこの世への憎悪と、満たされることのない破壊衝動の傀儡と化した『それ』によって、その日、ハイラル王国は滅ぼされるのであった。 ハイラルの地に巣食う、最凶にして最恐の厄災───ガノンの復活に、人々は逃げ惑うことしかできなかった。
ガノンは復活後、ハイラル城地下の格納庫内の無数のガーディアンを自らの怨念で汚染した。ガノンの内なる破壊衝動に支配されたガーディアンは、無差別に視界に入るものを焼き払う殺戮兵器と化した。 ガーディアンの大群に襲われた城下町は壊滅的被害を被り、住民も過半数は命を落としてしまう。それでも、彼らは諦めなかった。命拾いした僅かな住民達は、ハイラル残党兵らと共に希望の地、ハテノ村を目指すことになる。 そして、敵対したガーディアンが放たれたことを知った男が考えることも、また同じであった。双子山という...
ガノンは復活後、ハイラル城地下の格納庫内の無数のガーディアンを自らの怨念で汚染した。ガノンの内なる破壊衝動に支配されたガーディアンは、無差別に視界に入るものを焼き払う殺戮兵器と化した。 ガーディアンの大群に襲われた城下町は壊滅的被害を被り、住民も過半数は命を落としてしまう。それでも、彼らは諦めなかった。命拾いした僅かな住民達は、ハイラル残党兵らと共に希望の地、ハテノ村を目指すことになる。 そして、敵対したガーディアンが放たれたことを知った男が考えることも、また同じであった。双子山という自然の防壁に守られたハテール地方は、避難場所としては理想的である。男は故郷であるアデノ村の住民達と共にハテール地方へ逃げ延びることにした。 男達は嵐の中、クロチェリー平原を必死に駆ける。ひ弱な老人や子供も引き連れながらの逃避行であるため、道中で不安の声や弱音を上げる者もいた。しかし、足を止められる余裕などない。高い機動力を持つガーディアンがここまで進行するのにそう時間がかからないことは明らかだったのだ。 長い逃走の末、一行はクロチェリー平原の最東端、ハテノ砦へと辿り着く。そこでは、来たる防衛戦に向け、ハイラル残党兵や戦う覚悟を決めた者達が戦の準備を進めていた。
「早く中へ!もう時間がありません!」
兵士の指示に従い、アデノ村の住民達はそそくさと砦の門をくぐる。しかしまだ安心はできない。ここからハテノ村への長い道のりを越えるまでは。
「戦力は足りてるか?」
同郷の彼らがハテノ村へ向かうのを見送ると、傍らの兵士に男は問いかけた。
「いえ、我々の中には本格的な戦を経験したことのないものも多くいます。そもそも、ガーディアンという未知の存在が相手故、勝てる望みは薄いかと…」
兵士の引き締まった表情が、ことの深刻さを物語っていた。
「俺も戦える。加勢させてくれ。」
そう言うと、男は背中に背負った大剣を示してみせた。その大剣が意味することを兵士は悟ったのか、頷きながら言う。
「助かります。でも、命の保証はしませんよ。」
ハテノ砦の奇跡───後世にそう言い伝えられる戦いの準備が、着々と進められた。弓矢を打ち下ろすための足場が急造され、あちこちで作戦会議や武器の整理がされている。 吹き荒れる雨風は一層強くなり、後に待つ激戦を先んじて告げているようだった。
「そういえば、カカリコ村の連中はどうした?あそこもハイラル平原に近い。安全とは言い難いだろう。」 男の質問に、兵士が答える。 「カカリコ村は切り立った崖の中にある都合上、彼らも下手に動くより村に留まった方が安全と判断したのでしょう。あの細い道をくぐれるだけの移動性能がガーディアンにあるとも思えない。」 確かに兵士の言い分も最もであった。だがしかし、男には一つ懸念があった。 「───いや、サハスーラ平原側の出入口はどうだ?ガーディアン本体が通過することはできなくとも、怪光線の射程圏内ま...
「そういえば、カカリコ村の連中はどうした?あそこもハイラル平原に近い。安全とは言い難いだろう。」
男の質問に、兵士が答える。
「カカリコ村は切り立った崖の中にある都合上、彼らも下手に動くより村に留まった方が安全と判断したのでしょう。あの細い道をくぐれるだけの移動性能がガーディアンにあるとも思えない。」
確かに兵士の言い分も最もであった。だがしかし、男には一つ懸念があった。
「───いや、サハスーラ平原側の出入口はどうだ?ガーディアン本体が通過することはできなくとも、怪光線の射程圏内まで容易に進行されてしまう。」
兵士がはっとする。ただでさえ険しかった表情は、みるみるうちに絶望の色に染まった。
「なるほど…。でも、どうします?援軍をあちらに向かわせるにも、避難を命じに行くのにも人手と時間が足りなすぎる。」
「俺が一人で行く。大勢で向かえば、ガーディアンがそちらに誘導されてしまう恐れもあるからな。」
「!?そ、そんな無茶な!?それに、カカリコ村の住民が避難する途中で奴らに狙われば意味がないですよ!」
「そんなことは承知の上だ。住民を避難させるんじゃない。俺が奴らを食い止めるんだよ。」
兵士は、男の言っていることが信じられないという様子だ。
「それこそ無茶じゃないですか!一体倒すのにも数人がかりなのに、相手は何体いるのかも分からない!」
「じゃあ他に誰が行くんだ?こちらの戦力を減らす訳にも行かない。それに、今この瞬間にも、カカリコ村に脅威が迫っているんだ。」
「それでも!そうだとしても───」
兵士が言葉を言い切る前に、男は砦を飛び出していた。
「ここは任せた。幸運を!」
そう言い残すと、男はカカリコ村へ走り出した。平原の向こう、禍々しい赤色に輝く巨大な物体が見えた。遂にガーディアンが双子山を越えたのだ。そうとなれば、もたもたはしていられない。男はカカリコ村へ向かう足をさらに早めた。
雨粒が顔に何度も当たり、激しい向かい風が吹く。それでも足を止めることなく、男は遂にカカリコ村へと辿り着く。
「全員村の上側に避難しろ!サハスーラ平原側の出入口から、ならべく離れるんだ!」
怯える住民達が、突然の来客に驚くのを尻目に男は坂を駆け下りる。 男の予想は当たっていた。出入口の通路の先に、一体のガーディアンが近づいていた。禍々しい紅色に発光しているそれは、八本の脚を忙しなく動かし、通路を進んでいた。 戦わなければ───決意が男を駆り立てる一方で、その胸中は恐怖感にも襲われていた。そう、ちょうどあの時、金色のモリブリンと対峙した時のような恐怖感に。 それでも、男はあの時とは違う。己の過去と、弱さと向き合った。醜く、惨めな自分を知り、その上で乗り越えた。 もう同じことは繰り返さない。そう思うだけで、足が震えることも、耐え難い動悸に襲われることもなくなった。 意志を固め、ガーディアンと対峙する。この物語における最後の戦い、知られざる英雄譚が今、幕を開けようとしていた。
カッシーワがリンクに語る詩物語は、遂に終局を迎える。男はいかにして詩に残されるまでになったのか?その所以たる勇気を描く最終章「我らが英雄」と、エピローグ「特別な詩」は明日から明後日にかけて投稿し終える予定です。
最終章「我らが英雄」 ガーディアンの不気味な眼が青色に発光する。今まさに、そこから光線が放たれようとしているのだ。 ガーディアンから一度光線が放たれれば、それを止める術は殆どない。とはいえ、ガーディアンとの間に広がる距離は長く、放たれる前に対処することもできない。 「一か八かの大博打と行こうじゃねぇか…来い!!」 男が大剣を構えた直後、遂にガーディアンから全てを焼き払う怪光線が放たれる。そしてそれは男の元へと直進し、その屈強な肉体すらも跡形なく消し飛ばす、その筈だった。 光線が男...
最終章「我らが英雄」
ガーディアンの不気味な眼が青色に発光する。今まさに、そこから光線が放たれようとしているのだ。 ガーディアンから一度光線が放たれれば、それを止める術は殆どない。とはいえ、ガーディアンとの間に広がる距離は長く、放たれる前に対処することもできない。
「一か八かの大博打と行こうじゃねぇか…来い!!」
男が大剣を構えた直後、遂にガーディアンから全てを焼き払う怪光線が放たれる。そしてそれは男の元へと直進し、その屈強な肉体すらも跡形なく消し飛ばす、その筈だった。 光線が男の肉体を穿つ直前、男は大剣を力一杯振り、光線の先端を刀身で薙ぎ払った。 すると光線は男を目前に進行方向を反転させ、そのままの威力と速度でガーディアンの装甲を貫いた。 ガーディアンの放つ光線を弾き返したのだ。そう、かつて王国の天才近衛騎士が、暴走したガーディアンを止めた時のように。 甚大なダメージを受けたガーディアンは、その場で数秒間硬直する。その隙に男は距離を詰める。そして大剣を大きく構え、力あるままに振りかぶった。 その切っ先はガーディアンの脚の一本を捉え即座に切断する。続けて二本、三本と次々に脚を切り落とし、その度に断面から青色のエネルギーが噴出する。遂にはその勢いでガーディアンは平原のなだらかな斜面を滑り落ちていった。 男は滑り落ちるガーディアンと、平原の全貌を眼下に捉える。
「敵は今の奴を含めて三体…奴らを一点にまとめ、まずは村から引き離す…!」
ガーディアンを追うようにして男は斜面を滑り降りると、三筋の赤い光が男を照らした。サハスーラ平原に存在する三体全てのガーディアンが、狙い通り男を排除すべき標的と見なしたのだ。
「奴らの光線は直進しかしない…ならば!距離さえあれば、避けるのも難くはない…!」
男はそのまま、村を背に北側のリコナ半島方面へ平原を走る。それを追う三体のガーディアンが代わる代わるに放つ光線も男は軽々と躱した。 内一体が、男に急接近する。至近距離となれば光線をかわすのも至難の業。とはいえ、先程のように動きを止め弾き返そうとするのなら、他のガーディアンの格好の餌食だ。 このままではまずい、そう判断した男は行動に出る。
男は付近の廃屋に周り込み、ガーディアンの死角に身を潜める。しかし標的を見失った三体は、このままでは再び村へ向かうだろう。 その事態を防ぐため、男はすぐに廃屋の屋根へとよじ登り、敢えて奥の二体のガーディアンの注意を引き付けた。屋根の上は、依然として男を探している目前の一体からは死角。そうなれば光線の命中度は格段に下がる。 「さあ!来い!」 奥の二体がほぼ同時に光線を放つその寸前、男は屋根から飛び降りた。 発射された二筋の光線はすぐ後ろの廃屋の壁に命中、すぐさま家は崩壊する。 その...
男は付近の廃屋に周り込み、ガーディアンの死角に身を潜める。しかし標的を見失った三体は、このままでは再び村へ向かうだろう。 その事態を防ぐため、男はすぐに廃屋の屋根へとよじ登り、敢えて奥の二体のガーディアンの注意を引き付けた。屋根の上は、依然として男を探している目前の一体からは死角。そうなれば光線の命中度は格段に下がる。
「さあ!来い!」
奥の二体がほぼ同時に光線を放つその寸前、男は屋根から飛び降りた。 発射された二筋の光線はすぐ後ろの廃屋の壁に命中、すぐさま家は崩壊する。 その崩壊に巻き込まれるのは、男に近づいていたガーディアンだ。元よりガーディアンの体は軽く、多脚の馬力も高いとは言えない。瓦礫に押しつぶされたガーディアンは、最早身動きをとることもできないだろう。更には崩壊した瓦礫がガーディアンの視界を塞ぎ、光線の発射はおろか敵の探知すらままならない。無力化されたも同然だ。 残る二体のガーディアンが男に接近する。しかし、その内一体は既に脚を切り落とされたがため、機動力は鈍く体もやや傾いている。 光線が放たれる前にと、男は全速力で走り出す。万全な状態なガーディアンならともかく、残る脚の少ないその個体は男から逃げ切ることができなかった。 男はそのガーディアンの胴体に身を乗り出した。更には反対側へ回り込み、その個体の頭部を遮蔽物とすることでもう一体の視線を遮る。
「喰らいやがれっ!!」
二撃、三撃と至近距離で斬撃を放つ。その衝撃に踏ん張ることも出来ないガーディアンは、一撃叩き込まれる度に大きく吹き飛ばされる。 何度目かの衝撃に、ガーディアンは廃屋の瓦礫を蹴散らしながらすぐ近くの崖上まで吹っ飛んだ。あと一撃喰らえば、崖下に広がるラネール湿原へと落下していくだろう。最後に渾身の一撃を叩き込み、すぐさま男はガーディアンから飛び降りた。
「落ちな!!!」
しかしガーディアンはそのまま崖下へ落下することはなかった。残り僅かなその脚で落下を目前に踏みとどまったのだ。 そしてガーディアンの青色の眼光は、今にも光線が男へ放たれんとしていることを意味していた。
「ッ!!」
この距離では避けることはできない。すぐさま剣を構ようと試みるが、惜しくも間に合いそうにない。正に万事休すだった。
無機質な発射音と共に光線が放たれるその瞬間、何かが風を切る音が聞こえた。そう思えば、目の前のガーディアンは光線を放つことなく標的を見失い、頭部を目まぐるしく回していた。 「…!?一体何が!?」 「伏せて!!」 何者かの叫び声に反応し、咄嗟に頭を下げる。その頭上を掠めるように何かが通過し、目の前のガーディアンの元で爆発した。 「まさか…バクダン矢か!?」 果たして誰が放ったのかと男は振り向いた。するとその先、あのシーカー族の青年が遠方で弓を引き絞っていた。 「そいつはもう動けな...
無機質な発射音と共に光線が放たれるその瞬間、何かが風を切る音が聞こえた。そう思えば、目の前のガーディアンは光線を放つことなく標的を見失い、頭部を目まぐるしく回していた。
「…!?一体何が!?」
「伏せて!!」
何者かの叫び声に反応し、咄嗟に頭を下げる。その頭上を掠めるように何かが通過し、目の前のガーディアンの元で爆発した。
「まさか…バクダン矢か!?」
果たして誰が放ったのかと男は振り向いた。するとその先、あのシーカー族の青年が遠方で弓を引き絞っていた。
「そいつはもう動けない!残るはあと一体、このまま始末しましょう!」
「…っ!応!!」
想定外の援軍に驚く暇もなく、男は残る一体へ向かい走り出す。しかし敵は先程とは違い機動力も健在なため、中々追いつくことができない。 「くっ…!」
思わず歯を食いしばっていると、ガーディアンが突如動きを止める。青年の放った矢がガーディアンの急所である眼を貫いたのだ。
「今のうちに!早く!」
男は駆ける。繰り返し硬い装甲に叩きつけられた大剣は、あと何度かガーディアンを斬れば砕け散ってしまうだろう。剣だけではなく、男の体力も限界に近い。長期戦が許される程の余裕は既に残されてはいなかった。
「だから!!今、ここで仕留める!!」
ガーディアンに急接近すると同時に剣を突き出した。渾身の突きにガーディアンの脚が吹き飛び宙を舞う。 続く追撃、男は跳躍すると同時に体を捻りながら剣を振り回す。螺旋を描く刀身が二本の脚を巻き込み、胴体を深く抉った。 漆黒の大剣は、青白い火花が散る中で幾度となくガーディアンを穿ち、その度に己の身に亀裂を刻んだ。 そして男は遂には身を乗り出し、止めを刺すべく、限界の近いその剣を頭上に構える。 心は奮い、体は震える。全身を巡る血液の流れが加速するのを感じた。今、体に残る全ての力を手に握る大剣に集中させる。 今までの努力も、葛藤も、全てはこの時の為だったようにすら感じる。神経の昂りは痛みも疲弊も忘れ、奮う心は不安も恐怖も感じない。
「これで…!終わりだァァァァ!!!!!」
叫びと共に、剣を振り下ろす。その刹那に、全てをかけて。今、男の生涯最後の一撃が放たれた。
長年の相棒は、主の力を最強の斬撃へと変換することで責務を全うした。使命を果たした漆黒の相棒は、かつての形を留めることもなく、幾多もの鉄の塵となり虚空に放たれた。 剣の最期の一撃を受けたガーディアンは、もう動かない。禍々しい光を放つことも、虫のように忙しなく脚を動かすこともなくなった。あとはもうただの残骸と化したガーディアンが、ひたすら雨に打たれているだけだった。 「はぁっ…はぁっ…」 途端に、体中が痛み出した。数ヶ月ぶりに死地に立ったことで、体のあちこちが悲鳴を上げているのだ。 次...
長年の相棒は、主の力を最強の斬撃へと変換することで責務を全うした。使命を果たした漆黒の相棒は、かつての形を留めることもなく、幾多もの鉄の塵となり虚空に放たれた。 剣の最期の一撃を受けたガーディアンは、もう動かない。禍々しい光を放つことも、虫のように忙しなく脚を動かすこともなくなった。あとはもうただの残骸と化したガーディアンが、ひたすら雨に打たれているだけだった。
「はぁっ…はぁっ…」
途端に、体中が痛み出した。数ヶ月ぶりに死地に立ったことで、体のあちこちが悲鳴を上げているのだ。 次に意識するのは、大剣の重みを感じることのなくなった両手であった。男の功績と努力の象徴であったかの剣は、既にその形を失っている。その事実に、どうしようもない寂しさを覚えた。 呆然とする男の元へと青年が駆け寄った。
「肩、貸しますよ。あとの防衛は、村の男たちがしてくれます。早く体を休めてください。」
「そういう訳にも行かないだろ…万が一犠牲が出たらどうする?」
「いいから。村の男たちを信じてください。武器も失った今の貴方に求められるのは、力ではない。」
言い返すことも出来ず、男は青年の肩に半身を委ねた。嵐の中、男はおぼつかない足取りで青年と共に村へと向かう。 村への道のりは、ひたすらに長く感じた。どこか遠くで鳴った雷鳴も、激しい雨の音も、何もかもが鮮明に聞こえた。それは、例え男が目の前の脅威を退けても、変わりようのない王国の危機を物語っているようで、かつて自分が忠誠を誓った陛下や慕ってくれた同僚達のことを思い出させた。 彼らは今、無事なのだろうか。 とめとなくそんなことを考えているうちに、カカリコ村へと辿り着く。足を踏み入れるやいなや、男は歓声に包まれた。
「え…何で…」 理解の出来ないその光景に、男は戸惑った。 「貴方は…貴方が考えている以上に強い。その強さが、皆を救ったのです。」 青年がそうは言うものも、男は尚も目の前の光景に疑問を抱かずには居られなかった。しかし、そんな男の内心に反し、涙ぐんだ住民達は口々に礼の言葉を述べる。 「あぁ、ありがとう…!貴方のおかげで、先祖代々の店を焼かれずに住んだ…!」 「いや、俺はただ───」 「私もだ…!家内と子供がいる家が救われた…!貴方は恩人だ!」 気づけば村中の住民が男へ礼を言いに来てい...
「え…何で…」
理解の出来ないその光景に、男は戸惑った。
「貴方は…貴方が考えている以上に強い。その強さが、皆を救ったのです。」
青年がそうは言うものも、男は尚も目の前の光景に疑問を抱かずには居られなかった。しかし、そんな男の内心に反し、涙ぐんだ住民達は口々に礼の言葉を述べる。
「あぁ、ありがとう…!貴方のおかげで、先祖代々の店を焼かれずに住んだ…!」
「いや、俺はただ───」 「私もだ…!家内と子供がいる家が救われた…!貴方は恩人だ!」
気づけば村中の住民が男へ礼を言いに来ていた。誰しもが、歓喜と感謝に満ちた表情をしていた。 その様を見て、青年が男に言う。
「確かに、貴方の今までの努力が夢の実現のためのものだったとするのなら、それは無意味だったかもしれない。でもほら、見てください。貴方が鍛え上げた勇気に救われた人が、こんなにも大勢いる。」
気づけば男も涙を流していた。
「何で…俺は、ただ…」
「僕達からしてみれば、貴方は英傑や姫巫女にも劣らない英雄です。ですから、胸を張って誇ってください。」
溢れ出る感情を、抑えることができなかった。
「───ッ良かった…!俺が、俺が今までしてきたことは…!決して、無駄なんかじゃなかったんだ…!」
子供の頃夢見ていた退魔の剣の騎士になることは、確かに叶わなかった。後世に名を残す数多の武人達に比べれば、男の力は余りにも小さなものだったのかもしれない。 それでも、男はその小さな力の他に、大きな勇気も持ち合わせていた。無謀にも思えることにも、その小さな力で立ち向かった。その結果、男は英雄となった。 挫折───それは、多くの者が必ず経験する人生最大の障壁であるといえよう。それを、男は乗り越えたのだ。己の弱さを強さへと変え、自らの勇気を信じて立ち上がった。 剣を失い、満身創痍な肉体で泣き崩れるその状況は、若き日に思い描いた光景とは確かに違っていた。それでも、男はこれ以上なき満足感に満たされていたのだ。だから、これで良かったのかもしれないと思う。 ───あるいは、男が真に憧れていたのは、退魔の剣でもなんでもない、人々が安寧と喜びに満たされた、この景色だったのかもしれない。
エピローグ「特別な詩」 しばらくの時が過ぎ、厄災がひとまず抑えられると、男は青年と旅に出た。遥か未来の勇者へと届ける詩を作るための、長い長い旅に。 「今度、貴方の詩も作らせてください。貴方が成したことは、後世に語り継がれるべきことだ。」 鮮やかな青空は、大厄災時の荒れ模様からは想像もつかないほどに澄み切っていた。 青年が男にそれを提案したのは、爽やかな潮風の心地いい海辺でのことだった。 「…は?…いやいやいやいや、俺なんかの詩を作ってどうするんだ。恋敵の勇者様に、とびっきりの詩を...
エピローグ「特別な詩」
しばらくの時が過ぎ、厄災がひとまず抑えられると、男は青年と旅に出た。遥か未来の勇者へと届ける詩を作るための、長い長い旅に。
「今度、貴方の詩も作らせてください。貴方が成したことは、後世に語り継がれるべきことだ。」
鮮やかな青空は、大厄災時の荒れ模様からは想像もつかないほどに澄み切っていた。 青年が男にそれを提案したのは、爽やかな潮風の心地いい海辺でのことだった。
「…は?…いやいやいやいや、俺なんかの詩を作ってどうするんだ。恋敵の勇者様に、とびっきりの詩を届けるんじゃなかったか?」
唐突な提案に戸惑いを隠しきれないながらも、からかい半分にそう返した。
「ちょっ!そのことは触れないでくださいよ!」
青年が顔を赤めながら慌てて訴える。そんな様子に心の中でしめしめと笑いながらも、男は遥か向こうの水平線を眺め、遠い日の記憶に想いを巡らせるのであった。
「悪かった悪かった。でも、その話、断りはしないぜ。もし、この旅も終わって、お前が暇で暇でしょうがないって時が来たんなら、暇つぶしにでも作ればいいさ。」
二人を包み込むようにして、強い潮風が吹いた。その爽やかな風に、かつての苦悩も、悲劇も、全部吹き飛ばされてしまったようでいて、男も青年も、ただの一度として大厄災の日のことを忘れたことはない。
「ええ、そうさせて貰います。」
世界は今、絶望に包まれている。だからこそ、差し込んだ僅かな希望を多くの人に伝えなければならない。 そうして伝えられた言葉が、いつか未来の勇者へ届くと信じて。届いた先にあるものが、彼により切り開かれた希望の光であると信じて。
追記:お恥ずかしながら誤りがありました。第四章にて、男の故郷を「アデノ村」としていますが、正しくは「アデヤ村」です。
今日から一緒に喋るクローバーカメレオンみくです!! 4人で活動してます。今度からゼルダの動画も上げたいと思います。メンバー紹介したいと思いますまずはリーダーのイブです。 副リーダー的な私です。そして毎回撮影に来るトモナとイチです。チャンネル名は「クローバーカメレオン」です。 チャンネルこう評価てください。 動画上げた時も報告します。 これからチャット仲間としてよろしくお願いします!!
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普通に序盤強かったやろ。
そのおじさんの名前は「シモン」です。
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✕ ピタロック ◯ ビタロック
ゼルダの伝説神すぎてわろたー
今更感あるが、ガーディアンのビームは、マスターモードフェイントあるから盾パリィは無理にしなくても。物資が豊富だから反時計回りで裏から武器攻撃で、ターゲッティングされたら矢を目に当ててのループ。 歩行型ガーディアンは馬乗って(駆け足以上で武器威力が2倍)回ってメリーゴーランド攻撃。または古代矢で。 23層のライネルは(最後に正面一騎打ち楽しみたいんだけど)どうしても騎馬ボコブリンと砲台ガーディアン処理に武器を抜く動作を見られるので、最初に古代矢で処理が無難かな。次に砲台ガーディアン処理、残ったボコたちは爆弾矢で焼くなりフリーズロッドで凍らせるなり。
ありがとうございました。
ライネル倒したいしなぁ
丁寧な解説本当に助かりました。ありがとうございます。
キャリバン全然見ないとかいってるゲルドの人いてティクル変わってるかなーって思ったら走り回ってた←つまり変わっていない
門前宿場町跡でした! 大変お世話になりました!!!
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第一章の投稿は終わりましたが、設定に誤りがあることに気がつきました。
リンクがマスターソードを抜いたのは12〜13歳の頃らしいです。
本作品ではリンクがマスターソードを抜いた時期を大厄災の数ヶ月前だとして話が構成されているため、本編の時系列とは大きく異なることご理解いただけると幸いです。
「魔物の…大群…!」
青年を追いかけてきたのであろう大量の魔物がこちらへ迫ってきていた。
豚のような醜い顔に、巨人のように強靭かつ巨大な図体、そして白い体表に浮かぶ禍々しい紫色の縞模様は、ハイラルに蔓延る魔物の中でも特に危険視される白銀モリブリンに違いなかった。
それも一体や二体どころではない。目算でも二十体はいようかという大群で、こちらに迫ってきているのだ。
駐屯地の兵士達の中で驚きと混乱の声が広がる。いくら二名の近衛兵がいようと、まともに相手をするならばこの場にいる一般兵から多く...
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同僚の言葉通り、それからそう経たぬうちに、天才少年騎士リンクは王国最年少の近衛騎士となった。
優しき心に強靭なる肉体。それでいて騎士の規範たる誠実な立ち振る舞い。彼は瞬く間に王国のヒーローとなる。
対厄災の要となる退魔の剣の剣士も彼になるであろうと、彼を知る誰もが信じて疑わなかった。そう、ただ一人を除いて。
「また剣の素振りか。いい加減腕も痛くなんないのか?少し休んだらどうだ。」
場所は中央ハイラルのコモロ駐屯地。近衛兵団のうち何名かは、直近の魔物の活発化を受け、国中の駐屯地へと...
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───第一章「憧憬という名の呪縛」───
ある少年がいた。中央ハイラル南部のアデヤ村で生まれた彼は、両親にも友人にも恵まれ、何一つ不自由ない環境で少年期を過ごした。
少年には夢があった。その夢は、いつしか彼の生きる目的そのものとなった。
彼は伝説に生きる退魔の剣を持つ剣士に憧れたのだ。圧倒的な力で悪を封じ、姫巫女を救い出し、民に安息をもたらす。その強さに、その勇気に、彼は憧れたのだ。
その夢の実現にはどんな努力も厭わなかった。愚か者と笑われ、無理な夢だと蔑まれても、彼は一人剣を振るい続け...
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第一章の投稿に取り掛からせていただきます。文字制限の都合上三つの投稿に分かれたものとなりますこと、ご理解お願いします。
カッシーワが、勇者へと詠う詩──それは、一人の男の物語。理想に囚われた彼の半生と、後の人生の転機となる事件の発端を描いた第一章「憧憬という名の呪縛」是非どうぞ。
そう言っていただきありがたいです。
しかし、私としましては多くの人に作品が認められること以上に、作品を書くという過程の方が楽しんでいる節があります。
それに、ネットという狭い世界において自分の作品など、所詮は中学生の妄想にすぎません。
なので、むしろ目立ちすぎずこのような掲示板でひっそりと投稿するのが望ましい形でもあるのです。
すみません…
舞台設定や世界観は本ゲームのものとなっていますが、はっきりいって攻略とは何ら関係のない内容となっていますので、何かしらご迷惑に思われたり、不快感を感じられたりするようでしたら、投稿は打ち止めにさせていただこうかと…
極端に過激な描写や救いのないエピソードは避けましたが、何かお思いになることがございましたらご指摘していただいて構わないです。
もう無用の情報かもしれませんが、ヒノックスがおすすめですよ。
首にかけている武器は、寝ている時に高いところからパラセールで滑空すれば戦わずにとる事ができます。
テストも兼ねて今日はプロローグのみを投稿させていただきます。
問題のないようでしたら、明日以降は本編の公開にも取り掛かろうかと。
それではどうぞ
─プロローグ─
静寂に包まれた夜のカカリコ村で、一人カッシーワは佇んでいた。ふと、背後から足音が聞こえてきた。何者かと振り返る。
「…おや?こんな夜更けにどなたかと思えば、あなたでしたか。」
そこに居たのは、金髪の美少年リンクであった。死線をくぐり抜け疲弊に満ちてもなお、月光に照らされるその表情は美しく見えた。
「こんば...
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先日ご相談した二次小説ですが、やっと書き上がりました。つまらないものですが、このコメントの返信欄に投稿させていただこうと考えています。
何らかの禁止事項への抵触を防ぐため、章ごとに、または場面ごとに時間を空けての投稿をさせていただきます。全五章、二万文字の文章量であるため、数週間程かけての投稿になる予定です。